鵜の眼・鷹の眼ご意見番

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屍人荘の殺人 読了

屍人荘の殺人 読了

 

 つい先日、今村昌弘という方が書かれた「屍人荘の殺人」という本を読了した。ラジオ番組で紹介されていて購入する気になり、テレビ番組でも紹介されてすぐに読んでみたくなった。なにせ、「このミステリーがすごい(通称:このミス)」、「本格ミステリ・ベスト10」、「週刊文春ミステリーベスト10」の三つのタイトルで一位を取った作品であり、なおかつデビュー作で三冠を取ったというのは初の快挙らしい。ミステリー界の新人賞である、第27回鮎川哲也賞というのも受賞しているそうだ。

 という鳴り物入りの紹介で、詠み始めてすぐ「あれっ?」っとなった。舞台の紹介において、出てくる幾つかのエピソードがどうにも素人っぽいのだ。

 まあ、実際新人でデビュー作なのだからそんなものかもしれないと思い直して読み進める。

 す、すると(ま、このくらいならネタばれとも言えないだろうからいいか)何とゾンビとかが出てくるのだ。オカルト物・・・? 俄然読み進める意欲が失せてくる。本格ミステリだというから期待して読み始めたのに・・・。

 しかしこの印象はすぐに裏切られることになる。確かに最初にゾンビが出てきた辺りからこの小説はどういう風に読めばいいのか戸惑っていたのだが、中盤に入ってゾンビ事件とは別に舞台である屍人荘で殺人事件が起き始めた辺りから、引き込まれるようになって、続きを読み進めずにはいられなくなってくるのだった。

 私はどちらかと言えばミステリーでは本格派と呼ばれるものが好きで、事件の謎解明にはいささかも非現実的な要素が入ってはつまらないと思っていた。しかし今村氏のこの作品はその考えを覆す本格ミステリ派を堪能させるストーリーを持っていた。

 読んでいる途中には思いもしなかったのだが、この手の舞台設定はどこかで観たようなデジャブ感覚があったのだが、よくよく考えてみて、私の大好きな作家のひとりである島田荘司氏の世界なのだと気づいた。彼の作品には時々妙な非現実的な世界が出てくる。しかしそれが本格ミステリーの謎解きを全く邪魔していない。そんなのずるいというような落ちは一切登場しないのだ。

 また更に考えてみると、これまた私の大好きな作家の一人である宮部みゆき氏にも非現実世界の話が時々出てくる。蒲生殺人事件がその典型で、クロスファイヤなどもその範疇に入るだろう。

 凄い作家というのはどんな舞台仕立てであろうと、読者を魅了する世界を作り上げることが出来るのだということを再認識させられた。

注)

 この手の読了感想はこれまで自前のHPの今日のひと言の欄に書いていたのだが、このところそっちのほうはすっかり更新が遠のいてしまっており、若干長くなったので本来の趣旨ではない「鵜の眼鷹の眼」のほうに載せさせていただいた。